「エゾシカ猟」と「銃刀法改正案」について

hunting

4月1日、西興部村の猟区にエゾシカ猟に行って来ました。過去4年に及ぶコロナ禍のため、しばらくの間狩猟は控えていました。数年ぶりの出猟でしたが、ガイドさんのお陰で今回も一頭仕留めることが出来ました。4年前の出猟時は自分で解体までチャレンジしましたが、今回は全てガイドさんにお任せしました。さすがに経験豊富な方は仕事が早くて美しい。流れるような仕事ぶりに目を奪われている間に、一頭の野生の牝鹿はフィレ、ロースと言ったお肉の部位に仕上げられていきました。

私が狩猟資格を取得した5年前、北海道のエゾシカ生息数は北海道庁によれば「66万頭」とされていました。その後のコロナ禍や、人身事故によるハンターの国有林・道有林への入林制限等の結果、今ではその数は「70万頭」を大きく超える水準にまで増加しています。一方、公安委員会では現在「銃刀法改正案」により銃所持資格等の厳格化※を計画しており、一層のエゾシカの増加が危惧されています。

「銃をめぐる規制や罰則強化 銃刀法の改正案を閣議決定 政府」

※主にエゾシカ猟に使用される「ハーフライフル銃」は現在銃資格取得後すぐに入手することが出来ます。しかし改正案によれば、今後は「ライフル銃」と同様、銃所持資格取得後「10年」を経過しなければこの銃の取得は出来なくなります。通常の散弾銃ではエゾシカ猟はほぼ不可能なため、この改正により若手ハンターによるエゾシカ猟への参入が大きく制約を受けることとなります。

公安委員会がこの改正案を提出した目的は、昨今頻発している銃を使用した凶悪犯罪への対策です。国民の生命と財産を守ることが最大の目的である警察組織にとっては、「銃」は出来るだけ国民に所持してもらいたくない存在に違いありません。私たちが毎日を安心して過ごすために警察の皆さんが日夜ご活躍されていること自体は本当にありがたいことだと考えています。

しかしその一方で、北海道ではエゾシカによる農作物や森林被害が留まるところを知りません。一部の犯罪者による銃犯罪と、エゾシカの棲息数を適正に管理するための有効なツールとしての銃使用が、十分に議論されることなく法案として提出されたことには大変な違和感を感じます。今回の公安員会による銃刀法改正案の提出は、乱暴な言い方をすれば「銃所持者=犯罪予備軍」と見做しているようにすら感じられます。

確かに以前から一部のハンターのマナーの悪さは指摘されてきました。最近も北海道では発砲が禁じられている山林での発砲や、入林を禁じられている山林への無断立ち入りに対して猟友会から会員に対して強い注意が喚起されていました。これでは警察がそんなハンターたちを目の敵にするのも無理のないことかも知れません。

【厳重注意】

違反者本人が責められるのは当然のことですが、私は「猟友会は趣味の集い」として一部の仲間だけの結束を強めて来た従来の猟友会の在り方にも問題の一端があったのではないかと感じています。私が狩猟資格を取って初めて参加した猟友会の研修会で「猟友会は趣味の集いであり、教育機関ではない」と言われたことを今でもはっきりと覚えています。ならば、「伝承すべき大切なこと」は誰がどう若いハンターたちに伝えていくのでしょうか?昨今の「個人情報保護法」もあり、たとえ猟友会に所属したとしても他の所属メンバーの名前も連絡先も知る機会はほとんどないのですから。

エゾシカの棲息数の増加傾向と農業・林業被害の増加。銃犯罪増加を背景とした銃刀法改正法案の動き。一部の悪質ハンターの存在と教育機関として機能していない猟友会の存在。様々な問題が複雑に絡み合っているのが、北海道の「狩猟」の現在の姿です。

「自由の相互承認」の実現が現実には容易いことではないことは、エゾシカを巡る北海道でのこれらの問題点からも明らかでしょう。このような「現実」の「課題」に直面するたびに、私は「自由の相互承認」の「非現実性」に途方に暮れてしまうのです。

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