「海江田艦長」対「ベネット大統領」

philosophy

私はかわぐちかいじの「沈黙の艦隊」の昔からのファンでした。コミックでの連載が終了してからもう数十年がたちますが、昨年大沢たかお主演で制作された実写映画はしっかり劇場で鑑賞してまいりました。今年になり、「沈黙の艦隊」はAmazonプライムで全8回のシリーズとして再編集され、より充実した見ごたえのある作品として公開されています。

物語の中ではアメリカの「ベネット大統領」はアメリカ中心の世界を堅持しようとする守旧派の悪役として描かれていますが、彼はホッブズの「リヴァイアサン」を崇敬する人物として描かれています。私自身も「平和のためには武力は必要」と考えているので、ベネット大統領の発想には共感する面が結構あります。

しかし「やまと」の海江田艦長はそんな旧来の世界秩序に真っ向から挑戦していきます。以下はAmazonプライムのシリーズの第7回目から抜粋した海江田艦長とベネット大統領の対決シーンです。大国アメリカの大統領を向こうに回し、一歩も引かずに持論を展開する海江田艦長。今の日本の政治家たちの煮え切らない態度を見ていると海江田艦長のような「強い男」を求める気持ちが私の中には確実にあることに気付きます。


ベネット「武装解除には応じるのか?」

海江田「武装解除には応じない。」

ベネット「テロリストの本音が出たな。」

海江田「やまとの存在意義は、国家から軍事力のみを摘出しなおかつ領土的野心を持たないことにある。」

ベネット「どれもきれいごとに過ぎない。」

海江田「理想というものは最初はきれいごとに聞こえるだろう。だが歴史がその証人となる。」

ベネット「言葉巧みに民衆を扇動するのは独裁者のやり方だ。」

海江田「”民主主義の面をかぶった侵略者”の間違いでは。」

ベネット「君は国際社会を無視している。」

海江田「真の国際社会は核保有国が主導権を持つ社会ではない。地球上に国家が誕生する前から人類は武器を持っていた。武器を使い自らの安全と自由を獲得した。だが同時に、支配と格差を生んだ。」

ベネット「争うのは人間の性。だからこそ国家が必要だ。」

海江田「大統領、あなたは核の放棄に応じるのか。」

ベネット「幼稚な質問だ。」

海江田「我が国に武装解除を求めるように、アメリカは核を放棄するか。」

ベネット「君みたいなテロリストを抑えるには力が要る。平和を実現するには強い国家が必要なのだ。米国が地球における最善の希望となろう。」

竹上首相「ベネット大統領、日本は国際連合総会の緊急招集を要請します。この問題、世界の平和についての問題を世界の皆と話し合いませんか。」

ベネット「元よりそのつもりです。」


しかしベネット大統領はその発言とは裏腹に、この会議の直後に「ヤマト撃沈」を第7艦隊に命じます。「対話」と「武力」、「本音」と「駆け引き」。「自由の相互承認」を実現するためには強かな政治力は絶対に欠かせないものであると今更ながらに痛感させられます。

武力を背景に「国」として独立を主張するという意味では、「ヤマト」も「イスラム国(IS)」も同じかもしれません。ベネット大統領は「やまと」と海江田艦長を「テロリスト」と呼びます。独立を主張することと、独立を認めること。ここにも「自由の相互承認」の問題が横たわっています。

「私たちは私たちの正義と大義のために独立する。」
「いや、我々の正義に敵対する者の主張は認めない。お前たちは国ではなくただのテロリストだ。」

それぞれの主張を余談なく公平に判断するために必要なもの。それを真剣に考えることが「自由の相互承認」を実現可能にするために絶対に必要な条件だと私は思います。

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